今週のお題「ほろ苦い思い出」
陣馬山という山に登った日のことが真っ先に脳内をよぎった。
思い出を鮮明にするためにスマートフォンの写真フォルダを遡ると10年前の日付が書かれてあった。なんと無常なことか。
10年前の私は「ヤマノススメ」という登山アニメの影響を受けていた。
ヤマノススメ、なんと素晴らしい作品なのだろう。登山について興味を持っていなかった私ですら引き込まれてしまう少女の友情の物語。
毎週ヤマノススメを視聴しては、まさしく人生も山の連続だな(?)という浅い感動を胸に抱き、友人らとヤマノススメの素晴らしさについて語り合うのが日課になっていた。
そんな日々の中で友人が魅力的な提案をした。
「山───行かね?」
ヤマノススメというアニメは出不精のオタクを動かすほどのパワーがあったらしい。数少ない友人からの誘いだ。私に断る理由などなかった。
最初の登山はヤマノススメの聖地でもある高尾山に行ったようだ。
改修工事中の高尾山口駅
高尾山は素晴らしかった。
アニメの聖地巡礼と軽い観光ができる上に、健康体でなくとも登頂ができるという親切設計にオタクは感涙した。
そしてその成功体験はオタクに色気を出させた。
次の山は陣馬山で決まりだ。
高尾山よりちょっと高くて、高尾山よりちょっと人が少なくて、高尾山よりちょっと山っぽいかな?というシンプルなステップアップとして選ばれた…わけではない。
オタク特有の斜に構えた思想が入って陣馬山が選ばれたわけでもない。
シンプルに私の体力的な問題を考慮して友人が選んでくれただけだった。
陣馬山を歩いている時、私が何を考えていたのか思い出せない。
ただ夢中だったのではないか。
普段とは異なる環境でリラックスするわけでも、山を構成する樹々の逞しさに感動するわけでも、動物や虫の息づく様を愛おしく思うわけでもなかった。
ひたすらに一歩を重ね山頂へ続く道を辿るという行為に夢中になっていたような気がする。
勿体無いではなく、少年が抜けきらぬ青年らしさを楽しんでいる、素敵な登山だったと今なら思える。
なんだかんだあって陣馬山の山頂へ辿り着いた私たちは、茶屋でお昼ご飯を食べることにした。
陣馬山といえば山菜蕎麦らしい。
そういうことなのでとにかく山菜蕎麦を頼んだ。
慣れない登山で消耗した身体に優しい味が労わってくれたからなのか、登頂したという達成感からか、景色の良さからかはわからないが、たしかに絶品であった。
なにより山菜のほろ苦さが印象的だった。
そういえば帰り道、足が生まれたての子羊のようにプルプル震えて何もできなくなった。
ほろ苦く、輝かしい思い出の一つである。
苦い思い出ならたくさんあるのだが。
中学2年生くらいの頃、自分のこと折木奉太郎だと思い込む精神異常者で腕時計してる男の人に憧れて腕時計つけてたとか。